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街の“差別的なアート”を根こそぎ削る。72歳のおばあちゃんが提案する「平和な社会の作り方」

Apr 24,2017

「爆弾を投げるより、花束を投げ世界を平和に」。そんな反戦のメッセージが込められ、“イスラエルへのテロリストの侵入を防ぐため”にイスラエルとパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区に建てられた分離壁に描かれたこの男性。このグラフィティを描いたのは、紛れもなく作品を通じて社会問題と向き合い、私たちに疑問を投げかけている覆面グラフィティアーティスト、バンクシーだ。

Photo by joy garnett

これまでに世代を超えて、世界中の若者を魅了してきたグラフィティやストリートアートだが、「平和のためのグラフィティ」も存在すれば、世の中には見る者を不愉快な思いにする「差別的なグラフィティ」も存在する。例えばドイツには、ヒトラー率いるナチスのシンボル「ハーケンクロイツ」のグラフィティが未だに描かれている。また、難民や移民などの外国人排他や、イスラム教など宗教の排他を訴えたものも存在するのだ。

Photo by verdienter Künstler

Photo by Thomas Hawk

景観を汚染・破壊する行為(ヴァンダリズム)であり、器物損壊、迷惑行為でもある絶対的社会問題の「差別的なグラフィティ」と向き合い、社会から無くそうと活動する、72歳のおばあちゃんがドイツのベルリンに存在する。

1945年生まれ、72歳。現役バリバリの人権活動家

 1945年、ドイツ南西部の都市・シュトゥットガルトで生まれたイルメラ・メンザシュラムさん。幼稚園教師、精神障害者の社会適応を助ける治癒教育者としての経験を経た後、現在はベルリンで人権活動家として活躍中だ。一体どのように、差別的なグラフィティと向き合っているのだろうか。

 彼女は自身を「Polit-Putze(ポリーット プッツェ)」と名乗る。ドイツ語でPolit(Politisch)は“政治的な”、Putze(Putzfrau)は“女性掃除作業員”という意味。要するに「政治的な掃除のおばちゃん」という感じだろう。街中の差別を“大掃除”するため、公園のベンチやバス停に貼り付けられた差別的なステッカーを削ったり、同じく差別的なグラフィティに、スプレーでハートやピースマークなどを描き、上書きしているのだ。

Photo by Irmela Mensah-Schramm

 この活動を30年間も続けているというイルメラさん。今までに取り除いた差別的なステッカーやグラフィティの数は13万個を超える。きっかけは近所のバス停に、ナチスメンバーのフライヤーが貼られており、それに嫌悪感を覚えた彼女は、家の鍵でそのフライヤーを削ることで、心の中の汚れた部分が取り除かれたような気持ちになったことだ。

 今日もポリーット プッツェ(政治的女性掃除作業員)として差別と闘い続けるイルメラさんに、Be inspired!は、彼女の信念や「未来を担う世代へのアクション」について伺った。

イルメラさんのこれまでを振り返る

 優しい笑みを浮かべながら待ち合わせ場所のカフェに現れたイルメラさん。アクティブに差別と戦っているなんて信じられないほど大らかな雰囲気だったが、本題に入ると一変。これまで除去したステッカーやグラフィティの写真とともに、自身の思いを真剣な表情で語ってくれた。

“これまで「DEMOKRATIE(民主主義)=VOLKSTOD(民族の死)」のグラフィティをハートで塗りつぶしたり、「MULTIKULTI ENDSTATION(マルチカルチャーの終点)」を、「MULTIKULTI EIN DANK(マルチカルチャーへの感謝)」と上書きしてきたわ。そこの住民や警察は、困ったことに誰も差別的なグラフィティを消そうとしないのよ”

イルメラさんがハーケンクロイツのシンボルをハートに塗り替えたグラフィティ

 このようなステッカーやグラフィティを除去する前に、まず写真に収めるというイルメラさん。これまで撮ってきた写真の数は、約2万枚。全て保存してあるという。だが、活動してきた30年間、ずっと順風満帆という訳ではなかった。

 ベルリン南西に位置するフリーデナウという街で、トルコ人を差別するグラフィティを消そうとしていた時のこと。市の職員が背後から力ずくで彼女のスプレー缶を奪おうとして、イルメラさんは転倒し後頭部を強く打撲。大事には至らなかったが、、病院で外傷性脳損傷と内出血の治療をしなければならなかったという。(参照:HASS VERNICHTET)またイルメラさんの名前を含んだグラフィティで何者かに脅迫されたり、スプレーによる器物損壊の罪で、1800ユーロの罰金を科せられそうになったこともあった。(参照:CNN)

“それでもやり続ける意味はある。一度警察に脅迫の件で電話で相談したんだけど、「その行為をやめろ」と逆に言われたの。でも警察は差別的なステッカーやグラフィティに対して、何もアクションを起こさない。彼らはナチスの時代から、何も学んでいないのよ”

 ナチス率いるドイツが降伏し、第2次世界大戦が終戦を迎えたのが1945年。その年に生まれた彼女の言葉には、重みがあった。

平和や差別について“創造的に”教えるワークショップ

Photo by Irmela Mensah-Schramm

 同じ歴史を繰り返さない為、子ども達に平和や差別について教えるワークショップもイルメラさん主導で開催されている。ドイツ国内の学校で、差別的なグラフィティがコピーされたプリントを、子ども達にペンで塗りつぶさせるという斬新なプログラムだ。

“ワークショップでは、生徒達が楽しめることが大切。それを考慮して、プログラムを組んでいるの。イスラム教徒の学生が、反イスラムのグラフィティを平和なものに変えていく姿は、見ている私も清々しい気持ちにさせてくれるわ(笑)。生徒達が熱中している姿や、これまでの素晴らしいワークショップの結果はどれも素敵な思い出よ”

 「差別はいけない」と頭ごなしに教育するのではなく、子ども達に“楽しく、創造的に”平和や差別について教えるイルメラさん。そこでとあるエピソードを語ってくれた。

“私の家の壁に、ナチスを支持するグラフィティが描かれるようになった時期があって。それを描いてた男がまたうちに来た時、私は笑顔で「遅すぎるわよ。もう消しちゃったわ」って対応してたのよ。そしたら後日、「僕はもう(ナチスを)支持していないよ」と改心したことをわざわざ言いに来たの!”

 この経験をしたイルメラさんは「憎しみを負の感情で消すのではなく、笑顔で消していくことが大切なんだって、ワークショップで子ども達に教えていきたい」と考え、今ではベルリン以外にもカールスルーエやミュンヘンで子どものためのワークショップを開催しているという。

“差別を社会からなくす為、ワークショップを体験した子ども達は、今後そのようなステッカーやグラフィティに対してアクションを起こせる。若い人達には、「(差別を)見て見ぬ振りをするな。団結し、お互いに支え合うことが大切だ」と伝えたいわね”

 インタビューの最中、疑問に思ったことがただ1つ。多様性に寛容なイメージのあるベルリンで、果たして本当に差別的なステッカーやグラフィティが存在するのだろうか。そんな筆者に、イルメラさんはこう問いかけた。

“もし良かったら、一緒に探しに行ってみる?”

イルメラさんと行う街の“政治的な大掃除”

 今回イルメラさんと探索したのは、ツェーレンドルフというベルリン郊外の街。のどかで静かなエリアだが、外国人排他を主張する右翼の組合や、学生が集まるアパートもあるという。

 早速発見したのは、「(国の)イスラム化?私たちは反対!」と書かれているイスラム教徒を差別したステッカー。イルメラさんによれば、半年前から見つけていたが、標識に貼り付けられており、手が届かないため、削り落とすことができないままでいるという。ドイツのメルケル首相が大量の難民を受け入れて以来、イスラム反対のステッカーをよく目にするようになったとのこと。パトカーが近くにいたが何も対処しないので、イルメラさんは怒りを示していた。

 比較的人通りの多いバス停の前や銀行の横に、イスラム排他を唱えるステッカーを発見。ステッカーには、ナチスの重巡洋艦である“PRINZ EUGEN(プリンツ オイゲン)”と、ペルシア軍と戦った人物“LEONIDAS(レオニダス)”、そして過去にイスラム教徒の侵入を防いだ人物“KARL MARTELL(カール・マルテル)”の文字が書かれており、こちらもイスラム教を差別する内容となっている。

 駅の近くで「MERKEL MUSS WEG(メルケルは出て行け)」と、難民を受け入れる政策をとったドイツのメルケル首相を非難するステッカーを発見した。難民受け入れ以降、このスローガンはメルケル首相反対派のデモによく使用されている。イルメラさんはカメラに収め、いつも持ち歩いている袋からへらを取り出し削る。普段の朗らかな顔とは違う、険しい表情だった。

 様々な人種が暮らすベルリンにも、外国人排他を訴えるステッカーが未だに多くあったことには驚きを隠せなかった。そしてイルメラさんは、最後にこう語ってくれた。

“「戦わない人は、負けたことになる」っていうことわざがドイツにあってね。これは本当よ。私にとってもね。挑戦しないってことは、何にも挑戦されなかったことになるの。まわりを説得させるのも必要だけれど、人は戦い続けなければいけない。そして年齢は関係なく、誰もがやりたいと思えば成し遂げることができる”

私たちが目指すべき「平和な社会の作り方」

 日本では差別的なステッカーやグラフィティを見る機会は少ないが、イルメラさんは私たちに、自身の経験とともに平和な社会の作り方を教えてくれた。「憎しみを制するのは、憎しみではなく、笑顔」。日常に潜む、どんな小さな差別でも見逃してはいけない。私たちにできることは例え小さなことであっても、皆が意識すれば差別が社会からなくなり、世の中がより良くなる日が来るのではないだろうか。

***

Irmela Mensah-Schramm

Text and photos by Ruka Yamano
ーBe inspired!

 

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